人はなぜ歴史を偽造するのか

人はなぜ歴史を偽造するのか

人はなぜ歴史を偽造するのか

P17:江戸時代、桶大工・畳屋・鍛冶屋などの職人でさえ諸役免許を得るためには、特殊な由緒を主張しなければならなかった。この由来書を裏書する権威者が公家。
P19:1774年真継量弘は真継家の「鋳物師職許状」を持たない鋳物業者の営業取締りを幕府に願い出る。過去に真継家の支配下に無い公儀と所縁の鋳物師たちの存在から要請は却下されるが、朝廷への献金財源でもあり鋳物師職許状の発給は認めた。
「廻船式目」
P21:西欧中世ギルドではその権威を当初は守護聖人に拠った。やがてギルドは職人自身の共通の意思を拠り所として、自分自身を根拠とする職業の格付けを確立する努力をするようになる。これと併せて、徹底した文献批判が行われ、偽文書を破棄し、その作成を厳しく取り締まる法律が制定され、今日の欧米契約社会がある。
P24:家康以前の松平氏は6代前の松平信光までは確認可能、源氏の方からは新田義重の子で初めて徳川氏を称した義季から4代までは確認できるが、その両氏間の空白期間は200年余ある。
P27:天正記=「播磨別所記」「惟任謀反記」「柴田合戦記」「紀州御発向記」は秀吉自作自演の伝記
P28:家光の時代になって幕府は朝廷に徳川家康の「叙位任官文書」の紛失による再交付を要請したが、これは原書に「藤原朝臣家康」とあるのを「源朝臣家康」に書き換える要求。
P34:朱子学では正しい行動をとった者が敗れたとしても、時代を経てその行為は天命を動かし、子孫の上に勝利をもたらすと説いた。
”かつて新田氏が真天子を助けた徳により徳川家があるとする”、『大日本史』の南朝正統論は徳川政権の正当を主張し、同時に時の(北朝)朝廷を牽制する意味があった。水戸黄門伝説が生まれたのは『大日本史』の価値を高める為。
P36:沢田源内『金史別本』:”源義経の裔が清を建国”とする説を『欽定古今図書集成』の「図書輯勘録」第130巻(この巻は虚構)に仮託して発表。間宮林蔵の北方探検にもこの義経子孫の調査が含まれていた。
P42:末松謙澄:「東京日日新聞」記者として政府攻撃の論陣を張ると、文才学識に感心した山県有朋に月給80円で陸軍勤務を勧められる。伊藤博文の声がかかって在英公使館書記になった翌年(明治11年)にケンブリッジ大学に留学。年間1500円を支給されても英国上流階級の子弟と対等に付き合うには足りなかった等、極東弱小国から来た留学生の屈辱を味わう。沢田源内の偽書や架空文献からの引用などで「義経ジンギスカン同一人物説」を作る。これを内田彌八が翻案脚色したのが『義経再興記』
P51:木村鷹太郎:学会では<キムタカ>と渾名された。
P53:大石凝真素美(おおいしごりますみ):「龍体進化説」
P55:平田篤胤本居宣長に遭っていない、入門の手紙を書き送ったときには、既に宣長は亡くなっていた。
篤胤が「日文、神代四十七言、神代四十七音、出雲国石窟神代文字、宗源道極秘神名、土札秀真文、神代象文伝」と神代文字を「鮮やかに発見」すると間もなく、神代文字で書かれた「歴史書」があちこちで発見される。
P61:自称・陸軍大佐ジェームズ・チャーチワード:経歴詐称、インドにも行っていない。彼は有色人種の日本人が日露戦争に勝利したのが我慢できずに、白人に勝ったのだから日本人は有色人種である筈がないという歪んだ思想の元に「ムー大陸=日本人はムーの白人種キチェ・マヤ人の子孫」をでっち上げた。
P66:「フグ計画」は仮に実現していれば、「偽史運動」が人権擁護に貢献した稀有な例となれるところだった。
P68:昭和11年1月竹内巨麿宅捜査のとき『竹内文書』は「靖国神社遊就館」に匿われていた。警察が竹内文書を押収できたのは2・26事件で竹内巨麿と親しい軍人が失脚した後、偽史が青年軍人を刺激したのは事実。
P70:竹内巨麿の祖父竹内三郎右衛門は明治6年の地租改正の際に「皇祖皇太神宮」の名義で地券を発給されている。他に妙な物を作ったり、墓に埋めたりしたとの村人の証言がある。巨麿自身は祖父三郎右衛門の法螺話を信じた被害者かも知れない。
P73:竹内文書は「八絋一宇」の理想像:理想を歴史として語り、「失われた過去」という架空の時間に刻む行為は・・・ここにおいて歴史は予言に等しいものとなる。
P122:久米邦武:明治6年『米欧回覧実記』執筆の褒章に下賜された500円で当時はまだ市外だった目黒に3千坪の地所を購入、その後宅地となり地代収入を得ていたことが、自由な言論行動を可能にした。
P144:大正10年『帝謚号』で森鴎外は教科書論争以後に削られた「北朝天皇」について他と同様に謚号の由来を考証、記述している。
P152:峯間信吉:
P156:幸徳秋水:<所詮戦争は陰謀也、詭計也、女性的行動也、狐狸的智術也、公明正大の争ひに非ざる也。社会が戦争を快として之を重んじ之を必要とする間は、人類の同義は遂に女性的狐狸的を脱出すること能はざる也>
P158:南北朝正閏問題は大逆事件の延長線上(報復)にある。
P225:国家の主権が天皇から国民になり選挙権を行使し、行政への情報開示を要求するのは国民が国の統治者だからである。統治者であるからこそ政治に無関心であったり、道徳的に怠惰であってはいけないのだ。
P226:国民主権は国民機関説(=最高機関)であって、断じて国民神権説(=無制限権利)であってはならない。