ハラノムシ、笑う―衛生思想の図像学 (ちくま文庫)

ハラノムシ、笑う―衛生思想の図像学 (ちくま文庫)

P16:サントニンの「食い合わせ中毒ご注意表」
P29:”持病の癪が・・・”の「癪の虫」はスッポン似 「小児養育金礎 薬王円能書」
P39:「虫」と「病」は同義語
P40:虫は腹の中に湧く
P48:三彭、七魂=伏矢、雀陰、し狗、飛毒、敗善、臭肺、呑賊
P52:フィラリア寄生虫症:「北斎漫画」の大金玉の図、『病理総論』田中祐吉
P66:ムシを倒す毒が、すなわちその病の薬と考えられていた。
P68:疳の虫気にウナギを焼いて鍋墨を粉にして食す:ムカデ、ヤツメウナギ、アカガエル、クワムシ等と同様にウナギを「夏痩せのムシ」を迎撃する「虫」と捉えていたのである。
”石麻呂に 我物申す 夏痩せに よきというなる ウナギとり召せ”『万葉集
P70:『血盆経』、風邪を引く:病気・伝染病は「罹るか・おこる」なのに風邪だけは外から「ひく」と体内に引き込むと捉えていた。
P71:古代は病気を引き起こす鬼神が跋扈して、これらの対策には「巫者」が当たった。『後漢書』の名医「華陀」も「方術伝(=呪術者の章)」に書かれている。節分の豆撒きも大晦日に行われていた「追儺」の大衆化したもので鬼は疫霊である。豆撒きの様な呪術も薬草を服用することと同じレベルの医療行為だった。身に付ける魔除けの呪符・呪物である薬草を体内に入れるのが服薬で、薬を飲むのも呪的行為だった。
P72:『傷寒論
P73:「疱瘡」が家に立ち寄らぬよう門口に貼る護符は、かつて宿泊などで恩を受けた疱瘡の神がその子孫は疱瘡にさせないと約束した人物の名を記してその子孫であることを示したもの。
「赤絵」、「はしか絵」:「風流踊り」も疫神を誑かして村の外まで連れ出し追いやる行為。
P77:明治10年築地海軍練習場で揚げた軽気球が掘江という一里ばかり離れた漁村に落ちると、漁師達は”風神の落し物”、”ラッキョウの化け物”と大騒動になる。櫂を振るって気球に打ってかかりフワフワと逃げる気球から水素ガスが漏れると”化け物が悪気を出した”と一目散に逃げたが、この臭気で病気になった者が2、3人でた。
P99:明治19年の錦絵『虎列刺退治』は上半身は虎、下半身は狸
P113:江戸期には小児の皮膚病を治すと「内攻」して更に恐ろしい病気を引き起こすと、治療を拒絶する親が多い。
P121:「先用後利」=売薬の販売方式
P129:伝屍虫:安藤昌益の医学論を弟子の真斎が要約した『進退小録』によれば臓腑に湿熱が蒸すことで生じた蠱虫が臓腑を侵し、瘴気が夫婦の交わりで精に感入、生まれた子に感染(遺伝)する。
P130:森立之『遊相医話』(1848年):病の鬼が憑いたり離れたりで、病んだり癒えたりする。鬼にも定員があるとすれば「他人に伝染(うつ)せば治る」となる。
P132:ミアズマ(瘴気)説:腐敗物からコレラなどの病毒が自然発生する。「石炭酸」:1865年、リスター
P139:「蘭奢待」=正倉院秘蔵の香木。河童は耐え難い臭気を放つ
P142:大正元年、糸左近『健康読本 ゐんてれすと』での理想の洗髪「1週から2,3週毎」
P148:明治38年『男女学問病』糸左近
P154:『養生訓』では病と戦争するかのような治療態度を戒めている。
P156:細菌はムシではなく、疫神の未来だったのだ!
P162:「野球は青少年の健康に有害である」:明治終わりの「朝日新聞」を中心に唱えられ大論争に
P172:『生殖器障碩神経衰弱病理及根治療法』(大正14年)著者長濱繁は診察した神経衰弱患者の「83%は手淫」が原因と断定
P176:「スペルミン」:精液の臭いの成分
P182:オナニーは恐ろしい障害があるだけでなく、精神の尊卑を決める行為となった。『男女通俗自衛論』
P193:正木不如丘『身体と食物』(昭和五年)
P196:窪田次郎『乞食の処遇に関する建言』(明治4年):貧民街の澱んだ空気を病原と恐れるミアズマ説がスラムへの恐怖感の基にあった。
P197:明治25年、松原岩五郎のルポリュタージュ『最暗黒の東京』:貧民窟に入った人が最も耐え難く感じるのは「悪臭」
P200:衛生思想は、それまでたんなる貧しさだったものを「暗黒」として浮かび上がらせた。
P201:肺病=不幸:『風立ちぬ』、『不如帰』
P208:「衛生警察」
P211:(幕末のことではあるが)コレラ大流行のとき、民間の伝統的対策は「神輿をくりだす、獅子舞、門松を門に飾る、注連縄を張る、豆撒き」(『安政箇労痢流行記概略』金屯道人)
また、コレラ患者の吐瀉物は”いい肥やしになる”とせっせと野菜畑に撒いた農家もいた。
P212:ドイツ人お雇い医師ショイベは金魚をコレラの特効薬といい、患者に毎日金魚の刺身を食べさせた。
P213:明治39年鹿沼衛生組合「夏の心得」という啓蒙ビラには”近所に「怪しき病人」がいたら衛生投書箱に投書するよう”呼びかけている。
P259:寄生虫学の濃野博士は回虫の卵を2千個飲んで、「回虫の体内巡り」を証明して見せた。世界中から賞賛されたという。
P262:H・P・ラブクラフト原作の映画化『フロム・ビヨンド』(1986年)