ユーザーイリュージョン―意識という幻想

ユーザーイリュージョン―意識という幻想

ユーザーイリュージョン―意識という幻想
p10:今日<意識>という現象を確認してから「3千年」しか経っていない。中枢にあって「経験する者」、意思決定する者、意識ある<私>という概念を得たのは100世代前のこと。このことから判断すると、意識ある自我の支配が今後も延々と何世代に渡って続くことは無い。<私>の時代の幕切れは近い?

p20:(マクスウェルの)方程式は、独自の生命と知性を持っており、我々より賢い。いや、その発見者よりも賢いほどで、もともとそこに投入されたもの以上を取り出しうるという感を免れない(ヘルツ)
p21:我々の内なる力や思考は自我がひっそりと身を隠している深みから一連のの意識の動きを通して昇ってきてようやく明らかになる(1856年マクスウェル)
p43:図3:マクスウェルの魔物の生涯:1867年誕生、1874年命名、1929年レオ・シラードによる解、1950年レオン・ブリルアンによる解、1961年ロルフ・ランダウアー、1982年チャールズ・ベネット(知識は得るときではなく「捨てる」のにコストが必要)、1990年ボォイチェフ・ズーレク:
p129:12948年にクロード・シャノンが情報を意味とは無縁のもの、無秩序と同類と定義したのは馬鹿げたことではなかった。
p133:ウィーバァー「情報は意味と混同してはならない」
p138:貧乏学生が電話をかけずに意思をつたえる方法、1990年オハイオ州ケニオン大学ベン・シューマッハーの講演から:事前の約束事を除いて情報をいっさい使わずに<外情報>を伝える。<外情報>を伝えるのに情報は全く必要ない。
p161:人間はホットドッグで出来てはいない。意識も情報というホットドッグで成り立っているのではなく、それを咀嚼して理解した結果で、意識の複雑度はそのもととなるものよりずっと小さい。
p162:目(視細胞)は少なくとも毎秒1000万ビット、皮膚(感覚点)から100万ビット、耳は10万ビット、臭覚器官は10万ビット、舌(味蕾)は1000ビットの合計で毎秒1100万ビットを超える情報が外界から脳に送られてくる。しかし、私達の意識は毎秒「40ビット」の帯域幅しかない。(実際には1〜16ビット程度)
p164:経験が意識されるということは、それがすでに過去のものとなっていること
p168:1956年3月心理学者ジョージ・A・ミラーが「サイコロジカル・レヴユー」に発表したのが「魔法の数7、プラスマイナス2−人間の情報処理容量の限界」7の対数は2と3の間2.8ビットが人間が一度に処理可能な情報量
P177:表2:意識による情報処理:黙読45、音読30、校正18、タイプ16、ピアノ演奏23、2つの数の掛算と足算12、物を数える3
P180:1975年8月コーネル大のエリザベス・スペルク、ウイリアム・ハースト、アルリク・ナイサーの「口述筆記をしながら同時に短編小説読む」実験結果は慣れれば自動的に(意識を呼び起すことなく)出来るようになる。
182表3:感覚系の総帯域幅(ビット/秒)>意識の帯域幅(ビット/秒):視覚10,000,000:40 聴覚100,000:30 触覚1,000,000:5 味覚1,000:1 臭覚100,000:1
P183:1000億個の神経細胞間に1000兆の接続があるが意識に届くのは毎秒10〜30ビット程度
P191:図19エルランゲン学派のW・D・カイデルの印象と表出の間にある意識、<外情報>は情報より重要である。人が口にした言葉を理解するより、その人の頭で起きていることを知る方が大切。
ベイトソンの二重拘束理論
P191:対人関係では意識的な言葉の占める部分は非常に小さい。言語情報に行き着く前に、多くの情報が処分されるからだ。これを理解していないと物笑いの種になる。子供の間で仲間言葉を理解しない子、情報に込められた<外情報>の解らない子はいつもからかわれる。高慢な態度や排他的風習、党派的感情、少数民族の迫害は全て、情報に潜む<外情報>が解らない人たちに対する嘲りの要素を含んでいる。
P192:言語を操る意識が自らの非力をを自覚したときに、寛大な笑いが生まれる。他人の意味情報や内的情報の貧弱さを暴くようなユーモアは、なんとも「卑しい」。イタリアの記号論学者&作家ウンベルト・エーコ>「悪魔は微笑みの無い信仰だが、人間を愛する者の使命は、真理を笑わせること」(薔薇の名前PP477、491)
P193:「人は意識的に嘘をつくことはできるが、無意識に嘘はつけない。」カール・シュタインブーフ1965「オートマトンと人間」
・「私は嘘をついている」1931年ゲーデルの定理
P195:嘘をつくことを体に許されていると思っている、思い上がりも甚だしい<私>こそが、最大の嘘
P199:サブリミナル広告:1957年プリコン・プロセス・アンド・エクイップメント社の閾下メッセージ、同じアイデアのサブリミナル・プロジェクション社もあった。
P206:PDPモデル:心の中の無意識のプロセスは高速な並列処理、意識的なプロセスは逐次的
P210:1917年O・ペーツル:タキストスコープ(瞬間露出器)を使い、人は覚醒時に受けた閾下刺激を夢の中で思い出せることを発見した。近代的手法で研究された閾下知覚の最初の例。
P234:エチオピアのメ・エン族は紙の「絵」に描かれた図柄に興味は湧かない、彼らにとっての絵とは「布」に描かれたモノだから。文化人類学者コリン・ターブルのピグミー族研究:生涯を森の中で暮らす彼らには平原の牛が「虫」に見える。パブロ・ピカソ:「なぜ人をありのままに描かないのですか?」と問われて差し示された(質問者の奥さんの)写真見てピカソ曰く「ずいぶん小さくて平べったい(奥さん)んですね」
P237:人間の<ホワイトバランス>は欺かれること暫しで、薄暗がりの乾燥室で白い下着にインクが混入し青み罹ったことに気づかない場合、他人の白いセーターを「ピンク」にして見る芸当もやってのける。
P240:1950年代は基礎研究の資金は軍(国防省)が提供するのが普通のことであった。(自分もそうだが)これから「XXは軍事目的の研究から生まれた副産物」などと言う誤解・言説が広まる。
カエルの目が外界について脳に伝えることは4つだけ、1)コントラストの明瞭な境界(水平線の位置を知る)、2)照度の急激な変化(これで天敵の接近を知る)、3)動くもの輪郭、4)小さく黒っぽい物体の輪郭を曲線(ハエ)と敵・味方・水面の情報のみで、カエルの脳は周囲の「リアル」なイメージを組み立てることには興味が無い、あるのは自らが食べ物にならずに食べ物を捕らえることに尽きる。「(カエル)目は、高度に体系化されて解釈のなされた言語によって脳に語るのであり、受容器が検知した光の分布を正確にコピーして伝える訳ではない。」→だからカエルはキスされるまで相手がお姫さまだと気づかない。
・LGN=外側膝状体
P248:LGNのニューロンが受け取る情報の80%以上は網膜からではない脳の異なる中枢からきている。ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ブァレーラは1991年に神経系は環境から情報を収集しない「閉回路」と
P270:<準備電位>が動作の0.55秒前に現れ始めたのに対し、意識が始動したのは行為の0.20秒前だった。決意の意識は<準備電位>の発生から0.35秒遅れて生じる。言い換えれば、脳の起動後0.35秒が経過してから、決意をする意識的経験が起きる。
p277:アーサー・ジェンセン:無意識にすること少し(0.25秒)遅くすることは出来ない、遅くしようと意識したときに0.5秒必ず経過してしまう。なぜなら、意識とは急ぐ必要が無い場合に使われるものだから。
p284:感覚皮質を直接刺激しても0.5秒かかるのに皮膚から(本物)の刺激を自覚するには0.1秒しか必要ない。
p296:1兆個のニューロンは0.5秒で1100万ビットの感覚情報を16ビットに煎じ詰めて、その16ビットに1100万ビット分を表す地図の役割を果たさせる。
p300:ラビ・ヒレルはイエス・キリストより50年前に片足で立っている間に律法を教えてくれと異教徒に問われて曰く「自分にとって憎むべきことは他人にも行ってはならない。これが律法の全てである。他はみな注釈にすぎない」
p302:相手に影響を与えるのは行為だけだから、内面的な問題はすべて許容されるとするのは断じて間違っている。問題は閾下知覚や<プライミング>といったものが存在するなら、じつは私達は自覚している以上に他者の考えや気分が解っている、という点にある。だから、お互いについて何を考え何を感じるかは、重要なことなのだ。ユダヤ教の難点は意識が抑制できない内面の酷薄さを容認している。一方のキリスト教は、内なる善を求めるのはいいが、それを心の中に生じることを制御できない<意識>に求めたことに問題がある。
p305:気分の良いときに主導権を握っているのは<意識>ではない。
p303:ジョージ・ガモフによれば、西部劇で悪役に先に拳銃を抜かせるのは心理学的には正しいことをニールス・ボーアは証明した。悪役は<意識>して動作しなければならないのに対して、主人公は相手の雰囲気・動作を捉えて<無意識>瞬時に動けるからである。実際、ボーアは玩具のホルスター式拳銃を買い、弟子に先抜かせて全員を撃ち殺した。
P316:人には自由意志があるが、それを持っているのは<私=意識>ではない。<自分=無意識>である。
p330:呪文や聖句を唱えると言葉のチャンネルがいっぱいになる。言語の帯域幅が占有され、思考のの入る余地がなくなる。
・自由意志は<私>ではなく<自分>によって行使される。ところが、社会的な契約を結び、社会的な許容限度を知っているのは<私>であり、しかも<私>が行使できるのはお粗末な禁止権しかない。
p333:法哲学:<自分>に責任を持つ、心理療法:<自分>を受け入れる、社会的関係:相手を受け入れる、個人的関係:<自分>が相手を受け入れる、精神性:<自分>を知っている、勇気:<自分>を信頼する。
たいていの調合薬は治療効果がはっきりしない。結核などの主要伝染病が撲滅されたのは薬ではなく、下水設備・食事・住居などの生活環境・衛生状態改善による。
p335:「筆跡学や占星術による解釈や判断などに人気がある理由のうちでも信憑性があるのは、逆説的に聞こえるが、当たるから、というものである」エイドリアン・グラハム
<性格>診断で個別診断の代わり(診断せずに)に全被験者に対して共通の診断内容を示して納得させるのは非常に容易である。例えば「あなたの性格には弱点がいくつかありますが、あなたはそれらの弱点を、おおむね補うことに成功しています」といった文章は「自分にとてもよく当てはまる」と被験者皆が思う。1950年代、ロス・スタグナー
「あなたは根本的に心の奥底では弱くて臆病だが、どうすれば幸せで強い人間のように見えるかを知っている」ドイツの心理学者クリューゲルの筆跡学の実験:(筆跡の)分析結果と称して全員に同内容の評価を下しても、全員が「自分個人を正確に言い当てている」ことに驚いた。
・調合薬と占は共に似たもの同志
p350:ヘッドホンを通してテレビ音声を聞くと「話声」は話手の映像があるテレビから「雑音」はヘッドホンから聞こえる。
p363:1958年角膜移植の成功した52歳の全盲(生後10ヶ月後以来)男性S・Bは、術後始めのうちは触ったものしか上手に見ることが出来なかった。S・Bは幼少のころ触れたことのあるバスの「スポークタイヤ」を開眼後もイメージしたりしていたので「これで触ったから見えるぞ」と云う具合で見えていたのか疑わしい。夜になると灯りを着けずにジッとしていたという。手術の1年後、世界に「幻滅」して寂しく死んだ。
・見れば信じられる、というのは真実ではない、信じるから見えるのだ。
P379:1976年プリンストン大のジュリアン・ジェインズは「<二分心>の崩壊にたどる意識の起源」で3000年前の人類は意識を持っていなかった。と主張した。ホメロスの登場人物は意識を持たない内から聞こえる神々の言葉によって行動する自動人形だと。「オデッセイア」は意識が登場し始めた時代に書かれたことがよく現れている。
P391:西欧では西暦500年から5世紀程の間、再び<意識>を失った形跡が見られる。
デルポイの巫女に告げられた神託がギリシャを統治したのは注目に値する。
1973年エドワード・トライオンは<宇宙の総和>ー物質、エネルギー、重力、膨張率、その中間の計算のいっさいを足すとーは「無」になる。宇宙にある正と負の量は等しい。
p432:図48:ホイラーのU、宇宙は無の内側で誕生した。全ては内側から眺めると無だ。外側の世界は内側から眺めると、じつは無である。私達は無の内側にいる。
P461:パーシヴァル・ローウェルの望遠鏡では火星の運河は見えなかった。
P478:ゼノンが言わんとしたのは、地表が無限に分割できるとしても、地図はそうはいかない。地図は帯域幅の限られた意識によって描かれたから。
P488:ルイス・キャロル著「シルヴィーとブルーノ完結編」の語り手マイン・ヘールに「最高のアイデアが浮かんだんです。じつは、私達の国の地図を作ったんですよ、1分の1の縮尺で!。未だ広げたことはありません、国中が覆われて日が当たらなくなりますからね、ですから、今は国そのものを地図代わりに使っています。あま、ほぼ地図の役目は果たしていますよ」
P504:クルト・ゲーテル:有限の記述では無限の世界を絶対に記述できない。
ルフレッド・タルスキー:ある命題が自らについてその真偽を証明することはできない。
・MIRVは核兵器による均衡を破った。
P511:天国は、ほんの0.5秒離れているにすぎないーただし、反対方向に。