見る脳・描く脳―絵画のニューロサイエンス

見る脳・描く脳―絵画のニューロサイエンス

・色素上皮細胞、視細胞(錐体、桿体)>水平細胞、双極細胞、アクアマリン細胞>神経節細胞
・錐体は中心窩から視角にして4度以内に集中、他の網膜上には略無いので、この周辺部では色覚は発生しない。逆に、桿体は視野の中心には略無く、視角10〜20度の領域で最大密度になる。視角50〜60度離れると密度は急激に減少する。
・網膜の光感度:視力=視角情報の空間解像力、視力1.0での識別可能視角最小値は1分(0.017度)、視力2.0で0.5分(0.008度)、焦点距離(水晶体結節点から網膜の距離)は「17mm」なので視角1分での網膜上の距離は「10ミクロン」、0.5分で5ミクロンで「視力2.0」は網膜で5ミクロン離れた場所に届いた光を異なった情報として受容=判別できること。
・空間解像力は「視細胞/神経節細胞」の比率で定まる。この比が大きい程、低解像度になる。網膜上の視細胞の数は桿体で1億2000万、錐体で600万、神経節細胞は120万程なので「視細胞/神経節細胞」の比は平均「100」になる。中心窩での比は「1」に近いので視力は中心窩が最高。
・受容野の概念:「視細胞→双極細胞→神経節細胞」は「多対多」の複数入出力になる。中心窩でさえ、1つの視細胞は複数の神経節細胞に情報を送っているし、1つの神経節細胞でも複数の視細胞から入力を受けている。「視細胞/神経節細胞」の比のみで視力を論じてはいけない。
・視覚連合野=ブロードマン18野と19野
・高次視覚連合野=ブロードマン7野・39野・37野
・デキシグルコース法=放射性フッ素でラベルしたデキシグルコースを注射。
・南仏アルデシュの洞窟画は30340〜32410年前に描かれた。また、文字の操作能力を発揮(獲得)したのは5000年前、解剖学的な(脳形質)道具立ては揃っても、これらの「能力」は暫くの間機能しなかった。

・ランドのレティネックス理論=色彩の認知は反射光の波長に依存しない、赤・緑・青の光の反射率の違いを計算することで成立する。
・視覚対象の2・1/2次元スケッチ=デビッド・マーは観察者中心の視覚情報をこう呼んだ。
・心像絵画:不可視的画題→網膜絵画:写実指向(不思議に3次元モデルでは無い)→脳の絵画:超可視的画題
・画家は神経学者に先んじて脳における視覚処理の過程がモジュール構造であることを表現し始めた。
モネ「パラソルをもつ婦人」=鮮明な輪郭線を欠き、形態が曖昧だが色彩認知を必要以上に強調した。
レンブラント「夜警」=中心窩優位の周辺部に色彩のない網膜特性に従う絵画
マルセル・デュシャン「階段を降りる裸体No.2」=運動視モジュール
レビィアン「謎」=運動視モジュール
スーラ「ポーズする女たち」=点描画法、色彩モジュール、点描単位が「1ミリ」なら画面から「3.4m」離れて見ると「色彩混合」が期待できる。以内でみると色彩が違う。
ルノアール「陽を浴びる裸婦」=ランドのレティネックス理論を再現
ピカソ「3人の楽士たち」=形態視モジュール、腹側経路のみ作動させた視覚世界
フランシス・ベーコン「イザベル・ロースソーンの肖像習作」=形態視モジュール、空間の位置関係が判らない絵
モンドリアン「しょうが入れのある静物II」=空間視モジュール、背側経路のみ絵画
ルネ・マルグリット「個人的な価値」=空間的文脈の再構成
シャガール「僕と村」=時間的文脈の再構成
カンディンスキー「三つの色斑のある絵」=超視覚的な画題、視覚体験のありようの無い絵
フォートリエ「大きな悲劇的な頭部」=触覚・体性感覚絵画
ジャクソン・ポロック「青い柱(部分)」=運動覚・体性感覚絵画、日本の墨絵にも見られる。

S・ゼキ「脳のビジョン」1995
D・マー「ビジョン」1987