創世記―旧約聖書 (ワイド版 岩波文庫)
ヤハウィスト伝承――J資料
モーセ五書の編集の際に使用されたと想定されている仮説上の資料文書の一つ。
記事の冒頭に、ヤハウェという神名を一貫して使用していることから、このように名付けられている。
ヤハウィストは、創世記では、用語や文体、生き生きとした物語技法や神学的特徴などの点で、他の資料とは明確な違いが見られるので、容易に抽出することが出来る。
一般に、南ユダで筆を起こされたものと想定されているこの資料は、ソロモン王国時代の初期に執筆されたとみなすことが出来る。その理由は、同じ時代に活動していたダビテの家族物語(ダビテ台頭史)の作者と文体がある程度類似していること、またソロモンの死後の王国分裂を知らないようであること、更にダビテ大王国に併合された全ての諸国民とその祖先物語の言及し、彼らが全てヤハウェ支配下にあることを示そうとしていることなどである。
ヤハウィストは、王国の成立を機会に、伝承資料を収集し、位置づけ、構成を行ったが、それは人間創造から始まる自分の民の王国前史を記述し、ダビテ王家の正統化を計ろうとしたからにほかならない。そして最初の原初史の部分では、人間の罪と神の介入によって形成された人類の歴史を描きだし、更に族長たちの物語や出エジプトの物語の部分では、祖先たちの信頼と服従を要求する神の守護と真実を強調しているのである。
しかし、最近の研究では、ヤハウィストの存在を否定したり、ヤハウィストは、補囚期前後の申命記史家的伝承層(D資料)に近いのではないかという説もある。
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エロヒスト伝承――E資料
モーセ五書の編集の際に使用されたと想定されている仮説上の資料文書の一つ。
神名として普通名詞、エロヒムを出3章まで用いているので、このように名付けられた。
祭司文書(P資料)も部分的に同じ神名を使用しているが、E資料は物語の文体、用語、歴史神学などの点で、Pとは明確に異なっている。

成立の時代としては、申命記以前であることは確実であり、また預言を重要視していることや、ホセヤの歴史神学と類似していることから、前8世紀前半とされる。
成立場所は、一般的に北イスラエル王国と見なされ、南王国に対し北王国を神学的に擁護するための作成されたのであろう。事実、南のもの見なされる伝承資料は非常に少ない。
何れにせよ、E資料は断片的にしか保存されていない(イサクの奉献創世22章など)ので、確実な判断
この思想は、王国成立以前の時代に由来するもので、E資料が行っているように、国家的・政治的な諸要素を引き合いに出すこと無しに、イスラエルを宗教的・精神的な(ヤハウェ直接支配の)誓約共同体として叙述することとよく一致するからである。
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申命記文書――D資料
D資料(申命記文書)は先ず独自の特色を持つモーセの第五書としての申命記をさすが、他の四書の中にも、J,E,Pの何れの資料にも属さない用語と思想を示す部分があり、申命記ないしは、申命記史書の精神に従う編集者申命記史家)によって加えられたと考えられている。
ヨシヤ王により発見されたとする律法の書(列王下22〜23章)は、原申命記のことで、紀元前7世紀エルサレムで著述されたものされる。
なお、申命記史家は、申命記1章に始まり、ヨシュア記・士師記を経て、サムエル記に及び、列王記下25章の至る範囲に認められ、王制は神の恵みとして容認し、国家主義的傾向が強い。(前記ヤハウィストと同一視する説もある)
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祭司資料――P資料
五書の資料文書の一つ。ヤハウィスト、エロヒスト、申命記的資料など、他の資料文書とは、用語や思想の点で明確に区別される。また定型化した文体を用い、祭祀国家としての思想化と理想化を高度に行った記述(儀礼的遮断と民族主義的傾向)をしている。創世1章1節から2章4節aの「天地創造」とレビ記がそうである。
祭司文書は、おそらくバビロン補囚のなかで、ユダの祭司たちのクループによって形成され始めたと思われるが、完成したのはバビロン補囚が終わった頃であり(前6〜5世紀)、更に後の時代に他の古い資料文書と結合され、モーセ五書の成立にいたる。
即ち、J・E・D・P各伝承資料などを祭司たちが第二神殿国家用に最終的に編集したのが、パッチワークとしてのモーセ五書である。