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*豚
飼料を肉にする変換率は豚35%、羊13%、牛6.5%である。ゆえに、食べる為に最も適した動物で肉を採る唯一の目的で飼育される。
豚は塊根・堅果・穀類を好みこれを食べると良く育つ、排泄物を食べるのは他に無いからで、何も無ければ共食いさえする。汚い場所で転げまわるのも体表面の熱を下げる為に致し方なくするのであって、可能なら綺麗な泥の方が良い。豚は体毛が薄いので日光を避ける術が無く、可哀想に汗腺が無いので汗もかけない。体温が摂氏30度以上になると堪え切れずに、自分の糞尿をも体に擦り付けるのである。豚の祖先は水の豊かな谷間・川岸・木陰で生活していたのだ。
12世紀サラディン王の宮廷医ラビ・モーゼス・マイモニデスは豚は「有害成分」を多々含むとして豚食忌避を援用したが、1859年に寄生虫のセンモウチュウと豚生肉の関係が提唱されるとこれがユダヤイスラムの豚食忌避の俗説となった。しかし、肉は普通調理加熱後に食べており、まして豚の生食の記憶は誰にも無い。
古代から中東で飼われている食糧生産動物に牛・羊・山羊がいたが、これは反芻する動物で食べ物で人と競合することはない。豚の消化器官は人間に似ているので低セルロースの小麦・トウモロコシ・大豆の穀類を食べると太ることができるが、高セルロースの餌では痩せる。
紀元前4000年〜2000年(前期青銅器時代)中東の集落の祭壇跡から豚の遺骸が大量出土しており、豚祭りは盛んに行われていた。人類学のカールトン・クーンは中東で豚が姿を消したのは森林破壊と人口増加と考えた。新石器時代には豚は樫とブナの森でドングリ・トリフをアサっていたがその森はオリーブを植える為に伐採され住処を失ったと。
豚飼育が適した地域インドシナ・フィリピン・サハラ以南・欧州にイスラム教徒が侵入したとき豚食の異教徒の抵抗に遭う為かイスラムが支配宗教に成り得なかったことが多い。言葉を変えると豚食忌避故にイスラムは地理的限界を造っている。イスラム教徒が連れてくるヤギが自由に木の根を啄むと森林は消滅する。イスラム地域の森林破壊は地中海で顕著であり、キリスト教地域になると森林が増加するのが解る。
ユダヤイスラム律法に「猪(野生豚)のみ食べて良し」とあれば、森林地帯は今よりずっと多く残ったろう。
森→耕地→牧草地→砂漠という変遷は豚の飼育から反芻動物の飼育への移行を促す。アナトリアでは紀元前5000年から森林は全面積の70%から13%に縮小した。カスピ海沿岸の森林は25%に減った。
中東では森林が減る毎に豚は高コストの贅沢品となり低コストの反芻動物に切り替える途中で豚肉忌避が成立したのかもしれない。
要は豚が高くなったので神=祭司に献納するのが嫌になったのです。