ヒトの進化 (シリーズ進化学 (5))

ヒトの進化 (シリーズ進化学 (5))

P5:リンネ自身は自らを生物分類を創造神から委託された第2のアダムと考えていた。
P7:ダーウィンは信仰放棄(自伝・第5章「宗教上の信仰」1958、1887年初期初版には大方削除されていた)
8:機械論に駆逐されたかに見えた生気論は形を変えて生き残る:心身二元論
10:中立進化論:偶然の遺伝的浮動、突然変異
11:論理とは人間の脳神経系に出現した自然言語の部分集合、これで人間・自然現象全体を把握しようとは無理があるのでは?
17:K型・r型戦略:少数精鋭・子沢山
27:サルの犬歯は食肉用途より武器、ホーニング
・古地磁気層序=地磁気逆転で年代推定
40:ゲラダヒヒとアヌビスヒヒは400万年前に遡れる別種だが、自然界で交配し一見適応度の低下を伴わない子孫を残す。
サバンナヒヒとマントヒヒの分岐の深さが60万年、5亜種全体で200万年、これらは人類化石種を考えるときに多くの示唆となる。
51:グルジア・ドマニシ標本(ジョルジョニクス)の年代は火山岩のアルゴンーアルゴン、古地磁気層序、生物層から175万年
52:二次的就巣性:ヒトの一歳時は他の霊長類の新生児に相当
55:フロレンシスはエレクトスが矮小化した種
58:ミオシン仮説:ミオシン・タンパク質をコードする遺伝子の一つが240万年前に突然変異で機能しなくなったのが脳容量の増大要因は疑問、咀嚼筋の発達が脳の発達の制約になっているとの発想には生物学的根拠は無い。双方は個体発生上異なる過程にある。(2006、マッカラム)
60:ネアンデルタルは怪我の治癒痕が多く、窒素・炭素の安定同位体分析から肉食へ偏向、ケサイ、マンモスが狩猟対象
72:1904年、ナトールはウサギで抗ヒト血清を造り、類人猿、他の哺乳類の血清と反応させて、沈殿物の量からヒトとの近縁の程度を推定した。
1960年、グットマンは血清アルブミンを精製し、アルブミンの構造の違いを免疫沈降法を用いて半定量的に測定した。1967年、サリッチとウイルソンはグットマンの手法を定量化し、免疫学的距離として類人猿の系統関係を推定、ヒトとチンパンジー・ゴリラの分岐を500万年前とした。
82:ヒト集団から無作為にに2つの遺伝子を取り出して差異を調べても「1000塩基に1個」以下の違いしかない。出アフリカから遺伝的多様性が変化していないのは、大陸への移動を度々試みた結果かもしれない。
87:現代人の全てとは断定できないが99.9%以上は20万年前にアフリカに住んでいた祖先集団起源。
88:図10:遺伝的個人差が大きい105個のマイクロサテライトDNA座位を日本人2集団と中国漢族5集団、東南アジア2集団、ヨーロッパ人で比較した近縁関係では、名古屋周辺在住者と沖縄在住者間のブートストラップ確率は100%、福建省広東省=93、北京=40、湖南省長沙市・陜西省西安市=36と中国内部の(南北間)差異が日本と福建・広東の遺伝的距離よりも大きい。
94:ハワイには移民混血で、新しい遺伝子組成を持つ集団が形成されている。人類拡散の時代に蓄積された集団間の遺伝的差異は、再び減少に転じる。
102:2度の偽遺伝子化:類人猿とヒトにはプリン代謝系の尿酸酸化酵素=UOXの活性が無いが、ヒトでは尿酸を産出するキサンチン酸化還元酵素=XORの活性をマウスの1/100に落とすことで尿酸値を調整している。近年、血中尿酸濃度を調整するトランスポーター=URAT1が見つかり、このURAT1,UOX,XOR各遺伝子の協調的な進化の様相が今後明らかになると、UOX不活性化の適応的役割が解る。
103:霊長類を除く哺乳類ではX染色体上にオプシン遺伝子が一つしかないので3色視が出来ない。
147:細胞内遊離基除去機能の1指標であるSOD活性を見るとヒトはチンパンジーと比べて格段に高い値
148:「おばあさん仮説」:1997年クリスティン・ホークスはタンザニアのハッザ族の観察から得た。
156:「4枚カード問題」:「A・K・4・7」4枚で(A)抽象型「母音の裏は偶数」の答えで正解の「A・7」を共に裏返すのは「1割未満」、多くは「A・4」を選んでしまう。しかし、カードと命題を「ビール・コーラ・25歳・18歳」、(B)社会的約束型「飲酒は20歳以上」とすると、全く同じ論理構造なのに正答率が75%以上になる。
157:「非協力者の検出」:1989年コスミデスは「社会的約束型問題=互恵的利他行動における非協力者の検出」を容易に受容できるのは「非協力者の検出モジュール」が脳に組み込まれている証左と考えた。
164:「最後通告ゲーム」、「第三者による罰ゲーム」:ヒトは利他的で「合理的経済人」を強く示す民族集団も無いが、分配提案最頻値が50%近辺なのに平均値は若干下回る。どの集団にも平均値を下げる「合理的経済人」が存在する。
166:公正感の起源:フルオマキザルは「不平等」を感じると積極的な拒絶行動を取る。(ブロスナン、2003)
長谷川寿一長谷川眞理子(2000)『進化と人間行動』、(1999)『ヒューマン・ユニバーサル』、(2005)『社会生物学論争史』
・「非侵襲的脳測定法」
172:”色のない緑が猛烈に眠る”
175:コイ科の魚では浮き袋と内耳がウェーバー小骨で連結されて、他魚にはない高い周波数領域が聞ける。
186:ホシムクドリはヒト意外で唯一、文脈自由文法と有限状態文法とを聞き分けることがきる。2006年ジェントナーが11羽中9羽のホシクムドリがこの弁別を学習させてヒト以外でも再帰性が認知できると主張した。ただし、この訓練には平均3万試行を要した。統語規則の受理は可能だが、「FLN=再帰的操作」を用いて「信号を生成」することではない。
188:英語では850語の基本語彙(ベイシック・イングリッシュ)だけで生物学や天文学などの基本概念を伝えることが可能だから、英語話者が使う平均6万語の語彙は「性的誇示」の為に造られた。(2000、ミラー)
189:毛繕い(1対1)より発話(1対多)の方が挨拶として効率が良い。(1997、ダンパー)
193:言語起源は共感覚的ブートストラップ:ブーバーとキキ(ラマチャドラン)
194:ミラーニューロン:サルのF5とヒトのブローカ野は口や顔面、気管など発声行動の部位と手の動きの制御に関わる。
195:「文法遺伝子=FOXP2」(1990、ゴプニック):ヒトのFOXP2はチンパンジー・ゴリラと2箇所でアミノ酸が異なる。この変異は10〜20万年前に起こった。言語というより発生制御に関する遺伝子。
199:逆ボールドウィン効果=隠蔽と脱隠蔽による遺伝的再配分(1997、ディーコン):例ビタミンC含有植物が充分ある環境時期には、「ビタミンC合成能」は「隠蔽」されるが、それらの植物が欠乏してくると、失われたビタミンC合成能を補完するために、色覚・臭覚・味覚が「脱隠蔽」される必要がある。この過程はビタミンC合成の遺伝子が色覚・臭覚・味覚の遺伝子に「再配分」
されたととも言える。
・直感像記憶=事物を画像・音声で記憶することで、普通者が言語・記号化されて記憶するところを、一部の芸術家、チェスの名人、数学者などは、得意とする領域について直感像を持つとされる。
200:言語能力は直感像が「隠蔽」されたことで「脱隠蔽」された:言語は直感像に関わる遺伝子が重複・変異して、再配分されて得た能力かもしれない?
言語をもつことで「事象を要約」して記憶できるようになると、その方が直感像記憶を保持するより適応なので、直感像に関わる遺伝子の機能が「隠蔽」された。しかし、芸術家などにとっては直感像の機能が適応的な意義をもつので「脱隠蔽」される(のであろう)。
202:性淘汰と逆ボールドウィン効果による歌文法の創発:ジュウシマツの歌は分岐とループをもち有限状態文法で記述できるが、コシジロキンパラの歌は完全に線形でいつも同じ順番で歌われる。(2003、岡ノ谷)
互いの卵を入れ替えて飼育すると(2006、高橋)、ジュウシマツは生みの親、育ての親どちらも90%の学習率で歌を憶えたのに対して、コシジロキンパラは生みの親からは100%、育ての親からは85%だった。コシジロキンパラは生みの親の歌要素を学習する生得的準備があるが、ジュウシマツはそれを失い、代りにどんな歌でも90%程度学習できる様になった。
飼育下では人間が鳥の雌雄を選ぶので、種認識の機能は不要になる(隠蔽される)。この淘汰圧が無くなると雄は歌に対する偏好を失い、どの歌でもある程度学べる様になる(一般学習能の脱隠蔽)が、この副産物として有限状態文法が派生した。
・『言語科学の百科事典』2006、『ヒトはいかにして人となったかー言語と脳の共進化』1999、『心とことばの起源を探る』2006、『言語の脳科学ー脳はどのようにことばを生みだすか』2002、『認知言語学』2002第11章「言語の発達」、『言語進化とは何かーことばが生物学と出会うとき』2006−この翻訳は原著の2,3,7章のみ、『脳のなかの幽霊ふたたび』2005