DNAが解き明かす日本人の系譜

DNAが解き明かす日本人の系譜

日本列島の言語学的分類は「日本語諸語、琉球語諸語、アイヌ語」、植物相は「照葉樹林帯、落葉広葉樹林帯」
・DNA多型分析・形質人類学・ウイルス疫学・言語学
17:LTLV-1キャリアは西九州の離島(五島、壱岐対馬)、南九州、琉球諸島で高頻度、五島列島の30歳以上人口に占める割合は30.5%、アイヌは45.2%、シベリアのニブヒ族も有
19:南アフリカ先住民に存在するLTLV-1とLTLV-2のキャリアは異なる先住民集団に属する。南アメリカの1500年前のミイラからLTLV-1のプロウイルスDNA断片が発見されている。LTLV-1保因者は昔コスモポリタン(世界的先住民)だった。

47:Y染色体の近親グループ
C3:シベリア、中央アジア華北朝鮮半島
C1:南方島嶼部(インドネシア、フィヒリピン)
D2:チベット華北朝鮮半島
O2b:朝鮮半島華北
O3:華北漢民族)、華南(漢民族
O2a:華南(少数民族)、東南アジア
01:台湾先住民、華南(少数民族)、東南アジア
N1:シベリア、北部ヨーロッパ
Q1:シベリア
46:表4−4 *TAJIMA(2004)亜型分類/YCC 2002
北アジア
ブリアート(61標本):BR*(xC,DE,K)=7%,C3=84%,O*10%
ニブヒ(21):BR*=5%,C3=38%,O*(xO1,O3)=29%,P*(xR1a)=19%,R1a=10%
(日本列島)
アイヌ(16):C3=13%,D2=88%
青森・静岡(82):C3=1%,C1=5%,D2=37%,O*(xO1,O3)=38%,O3=20%
九州(104):BR*(xC,DE,K)=1%,C3=8%,C1=4%,D2=28%,O*(xO1,O3)=34%,O3=24%,O1=2%
沖縄(45):C1=4%,D2=56%,O*(xO1,O3)=22%,O3=16%,P*(xR1a)=2%
(東アジア)
漢・華北(49):C3=8%,O*(xO1,O3)=22%,O3=55%,O1=6%,P*(xR1a)=8%
漢・台湾(21):C3=14%,O*(xO1,O3)=10%,O3=62%,O1=10%,R1a=5%
台湾先住民(223):C3=1%,O*(xO1,O3)=3%,O3=13%,O1=83%
(東南アジア)
タイ(34):BR*=3%,C*(xC1,C3)=3%,D1=3%,O*(xO1,O3)=44%,O3=35%,O1=9%,P*(xR1a)=3%
マレー(12):BR*=8%,D1=3%,O*(xO1,O3)=25%,O3=25%,O1=25%,K*(xO,P)=8%,R1a=8%
フィリピン(50):O*(xO1,O3)=2%,O3=38%,O1=46%,K*(xO,P)=10%,P*(xR1a)=2%,R1a=2%%
亜型分類/YCC 2002→変異部位?:BR*(xC,DE,K)=SRY(10831a),C3=M217,C1=M8,C*(xC1,C3)=RPS4Y(711),D2=D55,D1=M15,E=SRY(4064),O*(xO1,O3)=AS1,O3=M122,O1=M119,K*(xO,P)=M9,P*(xR1a)=P27,R1a=SRY(10831b)


62:アフリカはY染色体亜型の格差が非常に大きい
90:R1b系統は旧石器時代に西欧州に移動した先住系集団だが言語的には非欧州。R1aは西か南のどちらから東欧に来たのか学説は定まっていない。I1b2はサルディニアに35%と特異的。J・J2はアナトリアに高頻度、インド・欧州に印欧語を持ち込んだ。
97:ウラル系=N3とアルタイ系=C3とは異なるので、「ウラル・アルタイ系」と言うヒト集団は存在しない蓋然性の方が高い。
103:アメリカ大陸先住民の3大言語集団はエスキモー・アレウト、ナ・デネ、アメリンド
117:Y染色体亜型の内A・Bを除くC・DE・FRが出アフリカを果たすがFR系統の1部はアフリカに戻る。
ユーラシア南部、オセアニア・オーストラリアにはCとFR系統の2大集団が移動した。
ユーラシア西部にはDE・FRが、ユーラシア北部にはC・FRが拡がった。
C・DE・FR系統の3大グループが一度に確認できるのは中央アジアとユーラシア東部。このC・DE・FR系統3集団が同一地域で同時に見られる日本列島はヒト集団の多様性は高い。

120:
C3:東アフリカ>南アジア>中央アジア>シベリア>サハリン>北海道
最近共通祖先年代(TMRCA)推定値は27500〜53000、旧石器時代に北海道に到着
*過去にNHKは「日本人はるかな旅1」で篠田謙一氏のミトコンドリアDNAデータの一部を利用して「日本人のルーツをブリヤート族」であるかのような放送をした。この筋書きは篠田氏の知らないところで決められた。(篠田私信)
C3は半島にかなりの頻度残っている。

D2:北アフリカ>中東>中央アジア華北朝鮮半島>西九州、但しD*祖型に関しては南方廻りの可能性を否定できない。
D系統のTMRCA推定値は13000年前なので西九州には新石器時代以降に到達。列島内部のアイヌ、中間部三島、琉球の3地域に共通して見られるのはD2のみ。

C1:東アフリカ>南アジア>東南アジア>インドネシア>フィリピン>台湾>琉球諸島>南九州(理由:インドネシア・フィリピン以外には殆ど見られない)
琉球から南九州にかけて新石器時代早期に開花したが6300年前火山の噴火で滅んだ「貝文文化」の担い手だったかも知れない。北部琉球沖縄本島貝志頭村で発掘された「港川人」はジャワ島ワジャク人に類似(馬場悠男2001「日本人はるかな旅2」106-122頁)

O(O2b、O3):北アフリカ>中東>中央アジア華北朝鮮半島>北九州、
O2b系統のTMRCA推定値は僅か3300年前、移動開始は金属器時代の2800年前から。渡来系弥生人の大集団移住が過去には推定されていたが、現在では極少数の移住が何度にも渡って行われたと推定されている。(中橋孝博2002「日本人はるかな旅5」116-135)大集団移住(征服)なら、大陸で見られた様にD2(男系縄文人)が淘汰された筈。但し、O*祖型が新石器時代に居なかった訳ではない(少数ながらO1とO2aが存在する)、アイヌには皆無。

先住系遺伝子プールと古代における列島先住系ヒト集団
128:エミシ=蝦夷:東北地方へ南下して来たアイヌ山田秀三、小泉保、植原和郎、日沼頼夫
アイヌと同じC3・D2系統が中心と想定、「陸奥風土記」によると津軽エミシが磐城のツチグモとは別のものと理解されている。この8世紀の古代文献でアイヌ南部境界より北部の先住民エミシと以南の先住民ツチグモとが異なる実体と記載されている。
ツチグモ=都知久母、土具毛、土雲、土蜘蛛、土知朱、ヤツカハギ=夜都賀波岐:
本州から九州にかけての広い範囲に居た。日本書紀によれば「低い身長と長い四肢」と縄文人との形態的特徴の類似がある。「常陸国風土記」にツチグモは竪穴式住居とある。「肥前国風土記」にはツチグモはハヤトに類似し、西九州のツチグモの言語は当時の支配層の言語とは異なり理解不能で、また松浦地方のツチグモが漁労民としている。D2推定
ハヤト=隼人:実は熊襲と同一で、熊襲の名前の方が頻繁に報告されている。

DNA多型と言語の乖離
135:生物学的指標のDNA多型(ヒト集団)と文化的指標である言語(民族)とでは、その分布が相関しない。
1)現在のトルコ共和国では本来話し手であるアルタイ系(テュルク系トルコ語)ヒト集団のC系統は1.3%程度に過ぎないが、DNA多型は欧州ギリシャと類似している。
2)ウラル系フィン・ウゴル系ハンガリー語地域であるハンガリーは周辺の東欧圏に高頻度のR1a(60%)を主体にR系統が73%を占めて、ウラル系のヒト集団に由来するN系統を欠く。
3)バスクカタルーニャケルトは先住系ヒト集団を反映するR1b系統が高頻度に集積しているこの3者に差異は無いが、孤立語バスク語、インド・ヨーロッパ系ロマンス系カタルーニャ語、インド・ヨーロッパ系ケルト系と言語による民族としては別個の存在。
4)オセアニアのうち、ニューギニアを除くメラネシアポリネシアミクロネシアは言語的にオーストロネシア系だが、DNA多型構成ではニューギニアからのヒト集団移住によって成立している。

言語学的方法論の有効性と問題点
139:同系言語の分離年代式(t=推定年代(千年単位)、C=同系語彙比率、r=0.86(基礎語彙100語が1000年で86%保たれる))
t = log C / (2 log r) ← ト! 
保持率・喪失率がともに時間・言語間で一定という条件は誤っており、この式は極めて「非現実的」、そして、言語年代学は不正確で受け入れるべきでない。(キャンベル1998)
140:ディクソンの仮定:
1)全ての言語、全ての方言は常に変化途上ににある。
2)言語変化の率は一定でない上に、予測も不可能である。
3)基礎語彙が非基礎語彙よりも借用される可能性が低いという一般原理は存在しない。
4)言語は進化の過程でただ一つの親言語を持つ。もし二つの言語の接触により一つの言語ができる場合、両者を同等に受け継ぐことはなく、どちらか一つに由来する。ただし、二つ目の言語が上層語あるいは基礎語として把握できる場合がある。
さらに系統樹モデルの限界として、最大8000年前の言語現象までしか有効でない。

141:言語的タイポロジー=音声以外の指標を取り扱い文法等の言語の形式や機能を言語間で比較し、言語の分類を検討する学問領域。
(1)タイポロジーによる分類
1)孤立語:中国、ベトナム
2)包合語:アイヌ、チュクチ、エスキモー
3)膠着語:日本、琉球、トルコ
4)屈折語:欧州

(2)言語学的特徴
1)名詞句、2)形容詞句、3)並置句・前置詞句・後置詞句、4)動詞句
主要部が従属部の要素のあり方を支配する。この方向性(前後の関係)は諸言語で異なる。

(3)提示によるタイプ分け(主要部か従属部によって重要な指標を提供する。
1)主要部提示:アイヌセム系言語
2)従属部提示:日本、琉球
3)二重提示:テュルク系言語、バスク
4)非提示:中国、ベトナム
5)分裂提示:オーストラリア
提示のあり方は一言語の中で歴史的な経過で変わり得る。

(4)自動詞の主語をS、他動詞の主語をA、他動詞の目的語をOとして
1)対格言語:S=A、<>O、2)能格言語:S=O、<>A、3)中立言語:S=A=O、4)三方式言語:S<>A<>O、5)分裂能格言語:名詞は能格言語、代名詞は対格言語の折衷体系

(8)語順は系統よりも地域に影響を受けるのであまり安定した指標と言えない。
1)SOV:日本、アイヌ、ラテン、サンスクリット、トルコ、チベット
2)SVO:中国、ベトナム、タイ、アラマイ、コプト
3)VSO:ケルト、タガログ、ヘブライ
150:ケルトの語順は古代印・欧語と同じSOVから現在のウエールズアイルランド語と同じVSO語順に変化した。少数支配者の上層語は言語系統に影響を与えない。ただし、少数支配者の別系統上層言語によって地域全体の言語交代が引き起こされた場合は別(例:トルコ、ハンガリー)、ブリテン島は11世紀から300年のフランス語支配で知的語彙を中心に6割強のフランス・ラテン系語彙を受容したが言語としてはゲルマン系英語を存続した。

155:有史以前にD2系統とO系統とが黄河上流域で出会った可能性は高い。
D2・O共にシナ・チベット、モン・ミエン、タイ・カダイ、オーストロ・アジア、オーストロネシア系言語の祖語に接触した可能性は排除できない。
159:日本語祖語の母体は(西)九州(D2言語)、対極にあるのはN1言語の影響を受けた東北(D2言語+N1言語)。
山浦玄嗣『ケセンの詩』1988